蒼月の約束
第二十五話

その日の夜、王子が「明日(あす)氷の洞窟に行く」と言いだした時、誰も反対するものはいなかった。

「わ、私も行く」

エルミアは表情を硬くしたまま、言った。

「だめだ」

すぐさま王子が反対した。リーシャも首を振る。

「危険すぎます。どこから春一番の情報が入るか分かりません。おそらく、女王の一行も、氷の洞窟にも向かうかと」

「それに冬の山は、エルフの国でも最も恐ろしい寒さの場所です。人間のミアさまに耐えられるかどうか」

グウェンが真顔で言った。

「お願い。じっとしていられないの。このまま一人でいたら、恐怖でどうにかなっちゃいそう…」

エルミアは膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめて言った。

さっきの恐ろしい情景が鮮明に蘇る。

一度しか会ったことはないとはいえ、助けてくれたセイレーンが事件に巻き込まれていると分かると、何もしないでいられない。

怖くて体が震える。そこに王子の手が重なった。

「分かった…」

「王子!」

非難するようなグウェンの声が浴びせられる。

「しかし、何かあった時には、私一人で花を取りに行く。いいな?」

反対意見など許さぬ、という威圧的な声を出す王子に歯向かうものは一人もいなかった。


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