蒼月の約束
約丸一日馬を走らせて、一行は冬の山へと到着した。
そびえ立つ巨大な白い山を目の前にすると、エルミアは寒さがさらに増すのを感じた。
エルフの防寒具のおかげで、寒さをあまり感じずにここまでやって来られたが、これからが本番だと、野宿用のテントの中でエルミアは覚悟しながら眠りについた。
朝が来たことさえ分からない冬の山では、エルフの鋭い感覚だけが頼りだ。
リーシャに肩を揺さぶられて目を覚ましたエルミアは、まだ真っ暗な外へと出た。
エルフには冷たい風に混ざって、微かに温かい春の息吹が感じられるようだ。
「春一番だ…」
王子が目を瞑ったまま呟いた。
「トックの言う通りですね」
エルミアの体に、更に防寒具を重ね着けながらサーシャが言った。
「ここからだ」
みんなの足手まといにはならないよう、決心したエルミアは震える手を握りしめた。
始めは緩やかな坂がどんどん険しくなっていくにつれて、雪もどんどん深くなっていく。
体の軽いエルフたちは、雪の上を歩いているため進むスピードが速い。
膝丈まで来た雪を掻きわけて進むのは、エルミアにとってかなり重労働だったが、なるべくみんなに後れを取らないよう必死で着いて行く。
グウェンの言う通りだった。
エルフの強固な防寒具を身に着けていても、凍てつく寒さが体に沁みてくる。
容赦なく叩きつける吹雪も激しく、顔を出しているといとも簡単に凍ってしまう。
そのため全員、顔の周りに布を巻いていた。