蒼月の約束
「大丈夫ですか?」
後ろからついてきているリーシャが、エルミアに聞いた。
自分が呼吸をするだけで精一杯のエルミアは、息一つ乱さないリーシャに向かって頷くことしか出来なかった。
どれくらい歩き続けたのか分からなかったが、先頭を歩いていたサーシャが声を上げた。
「洞窟が見えてきました!」
その言葉を頼りにエルミアは力いっぱい、足を進める。
足先だけでなく手先の感覚もなくなってきた。早く、どこかで休みたい。
その一心で、雪を吸って重くなり始めている服を引きずりながら前を目指す。
その時、王子の声が響いた。
「誰だ」
それからグウェンの「王子!」と叫ぶ声と、金属音が山にこだました。
吹きすさぶ雪のせいで視界が悪く、エルミアは何が起きているのか全く分からない。
「ミアを洞窟へ!」
そしてまた別の金属音がぶつかり合う音が聞こえた。
「急ぎますよ、ミアさま」
焦った声のリーシャがエルミアの腕を掴み、飛ぶようにやって来たサーシャが別の腕を掴んで雪の中からエルミアを引っ張り出す。
「走ります」
エルミアが何か言う前に、二人に抱えられるようにして雪の上をすべるように走る。
自分では走っている感覚が全く、ほとんど二人に持ち上げられているようだ。
ふと、目の端に王子と、グウェン、そしてフードを被ったエルフが剣を振るっているのが見えた。
三人とも雪の上に足跡一つ残さず、飛ぶように戦っている。
時々聞こえる剣がぶつかり合う音がなければ、何をしているか分からないほど、剣の動きは早かった。
エルフの瞳が、遠くを走るエルミアたちを捉えたが、王子への攻撃を止めることはなかった。
深く被ったフードの下で緑色の瞳が鋭く光ったのが見えた気がした。