蒼月の約束
「王子を助けに行きましょう」
リーシャがいつの間にか目の前に来ていた。
まだ寒さで震えているエルミアを見て、リーシャが言った。
「急ぎましょう。ミアさまの体力もそろそろ限界だと思います」
あまりの寒さで思うように動かなくなった体を引きずりながら、入り口へと引き返す一行。
サーシャとナターシャはまだ静かに涙を流していた。
寒さで声さえも失っていたエルミアだが、目の前の光景を見て思わず叫んだ。
「う、うそ…!」
いつの間にか吹雪は止み、視界がクリアになっている。
真っ白な銀世界の中で、深紅の血がところどころに点をつけている。
その中心で、王子とグウェンが倒れているのが見えた。
フードの敵の姿はない。
「お、王子!」
エルフ三人も慌てて駆け寄り、傷の様子を見る。
ナターシャが目にも止まらぬ速さで2人の応急処置をし、リーシャが王子を、サーシャがグウェンを担いだ。
「私たちは先に行っています。ナターシャ、ミアさまをお願いしますよ」
ナターシャは強く頷いた時には、既に二人の姿は小さくなっていた。
「それでは、私たちも」
エルミアは自分より若いだろうナターシャにおぶさるようにして、雪山を下山した。
もはや体力の限界を超えたせいか、頭が朦朧としてどうやって王宮にまで戻って来たのか定かではない。
数日高熱を出して寝込んだことを後から聞いたが、覚えているのは自分がいかに何の役にも立たなかったかと思い知らされたこと、そして何度も同じような悪夢にうなされたことだけだった。