蒼月の約束


「私たちの言葉が分かるか?」

男が静かに聞き、驚きながらも朱音は頷いた。

「…わ、分かります」

言葉が通じるようになった朱音は、そのままの格好のまま尋問されるようだった。

「お前の名は?」

またもや先ほどの椅子に座り直し、男は何事もなかったかのように尋ねた。

「四宮、朱音…です」

「アカネ…。聞いたこともない名前だな」

顎の下にある槍のせいで、考え込む仕草をしている椅子の人から目を離すことは、まだ許されない。


「どこから入って来た?」

「…わ、分かりません」

朱音は正直に言ったつもりだったが、その隣で朱音を始終睨んでいた男性が声を荒げた。

「王子に嘘を申すと、あとでどうなるのか、まだ分からないのか!!」

「ほ、本当なんです!」

朱音の頬にまたもや涙が流れた。

「別の場所にいたはずなのに、水に襲われて、気づいたらここに来ていたんです!本当なんです!」


信じて下さい、と言うしか朱音には残されていなかった。

こんなところでまた怖い思いをするなら、水の中で眠っていた方がよっぽど良かった。

涙が滝のようにあふれ出すが、ぬぐうことも許されない。


「お前は西の女王に召喚された娘かもしれない」

王子がゆっくりと口を開いた。

「王子!しかし…」

「全ては予言通りだ」

有無を言わせない物言いに、立っている男性は静かになる。
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