蒼月の約束
目を覚ますとまた自室のベッドの中にいた。どうやって戻って来たのか記憶がない。
窓から差し込む光の加減から見て、すでに夕方になっているのだろう。頭が内側からハンマーで叩かれたように痛む。
「目を覚ましたか?」
そう声をかけられて、エルミアは自分が一人でないことに気づいた。
重たい頭をもたげて王子の方に向くと、悲しそうな顔をしている。
エルミアは体をゆっくりと起こした。
「なぜここに?」
何事もなかったかのように振舞うよう努力をする。
「ここ最近、悪夢を見ると聞いた」
そう話しながらもエルミアの手を離さない王子の瞳は、悲しみに揺れている。
「大丈夫です」
精一杯の嘘を吐いた。
あのおぞましい光景が脳裏から離れることはない。
すぐに思い出せるほど記憶に鮮明に残っている映像と、耳をつんざくような悲鳴。
叫ばないように自分を制することの方が難しくなってきている。
でも、あの悪夢が現実になると考える方がさらに恐ろしかった。
「無理をするな」
王子のしなやかな手がエルミアの頬に軽く触れた。
スカイブルーの瞳が、エルミアが必死に隠していることを探ろうとしているように思えた。
慌てて視線を外す。
「あの、良かったら、音楽聴かせてもらえませんか?」
最近では、王子が肌身離さずあの横笛を持っていると聞いた。
最後にもう一度、聴きたい。
王子は何も言わずに、腰から取り出すとゆっくりと演奏し始めた。
エルミアは瞳を閉じて、優しく鳴る音色に体をゆだねた。
気持ちがいい。
心が軽くなり、心配事もその間は忘れさせてくれそうだった。
しかしその時間も長くは続かなかった。