蒼月の約束
朱音の頭は、
「西の女王」
「召喚」
「予言」
でいっぱいになった。
私が女王に召喚された…?
意味が全く分からない。
私は満おばあちゃんのように予言も出来なければ、不思議な能力も少しも持ち合わせてはいない。
「これを使えば、すぐに分かるはずだ」
そう言って、王子は立ち上がり、朱音の目の前に来ると後ろに立っている衛兵たちに手のタオルを取るようにと命令した。
手が自由になっても、ガタガタ震える体を止めることは出来ない。
王子が厳重な箱に入れてある星型のネックレスを差し出した。
「これを持てば、お前が本物なのか分かるだろう」
断ることも許されないこの状況で、朱音はおそるおそる手を出し、それを手のひらに乗せた。
これで、何も起きなかったら、きっと私の命はない…。
さっきの光玉のように、何かしら起きることを心の中で念じた。
すこし冷たく重いネックレスは、朱音の手の中で何事もないようにじっとしている。
お願い…!
お願いだから、何か起きて…!
しかし、朱音の切なる願いもむなしく、何かが起こる気配は全くない。
数分が数時間のように感じられた。
側近が呟いた。
「王子…これは」
王子がため息を吐いた。
「これで、はっきりしたな」
今度こそ殺される…
朱音は最後の希望さえも失くした。
これで終わり…
私の人生、これで終わりなんだ…
私はここで死ぬんだ…
王子が皆に聞こえるようにはっきりと凛と通る声で言った。
「正真正銘、予言の娘だ」
王子がそう言い放った言葉から、全てが一変した。
突き付けられていた全ての槍がどけられ、丁重に立たされと思ったら、また別の場所へと連れて行かれた。
想像していた牢獄ではなく、豪華絢爛というにふさわしい大きな寝室。
何が起きているのか訳が分からず、朱音は、ふかふかのベッドに座わらされた瞬間、脱力と共に意識を手放した。