蒼月の約束

エルミアの頬に流れる涙に気がついた王子は、途中で演奏を止めた。

「本当に、大丈夫なのか?」

エルミアは慌てて涙を拭く。

「あれ…なんでだろう」

ふと王子が優しくエルミアを抱きしめた。

甘い香りに一気に包まれる。

「私では頼りにならないか?」

どこか寂し気な声色に、エルミアは心がぎゅっと締め付けられた。

王子の背中に腕を回して気持ちに応えたいのに力が出ない。

仕方なく腕を回すのを諦めて、言葉にした。

「いえ。王子には助けてもらって感謝してます」

「何かあればすぐに呼べ。いつでも助けるから」

「はい」

エルミアの瞳がまた重くなり始めた。

今すぐ眠りたいほど疲れているのに、夢を見るのが怖くて目を瞑りたくない。

しかし、そんな葛藤に気がつかない王子は、エルミアを優しくベッドに寝かせた。

「ゆっくり眠るといい。ここにいるから」

エルミアは小さく頷いて、目を閉じた。

しかし眠りにつかないよう、手をぎゅっと握りしめる。

結局、王子が寝たと思って部屋を出て行くまで、血が出るほど手のひらに自分の爪を喰いこませていた。


< 230 / 316 >

この作品をシェア

pagetop