蒼月の約束
エルミアの頬に流れる涙に気がついた王子は、途中で演奏を止めた。
「本当に、大丈夫なのか?」
エルミアは慌てて涙を拭く。
「あれ…なんでだろう」
ふと王子が優しくエルミアを抱きしめた。
甘い香りに一気に包まれる。
「私では頼りにならないか?」
どこか寂し気な声色に、エルミアは心がぎゅっと締め付けられた。
王子の背中に腕を回して気持ちに応えたいのに力が出ない。
仕方なく腕を回すのを諦めて、言葉にした。
「いえ。王子には助けてもらって感謝してます」
「何かあればすぐに呼べ。いつでも助けるから」
「はい」
エルミアの瞳がまた重くなり始めた。
今すぐ眠りたいほど疲れているのに、夢を見るのが怖くて目を瞑りたくない。
しかし、そんな葛藤に気がつかない王子は、エルミアを優しくベッドに寝かせた。
「ゆっくり眠るといい。ここにいるから」
エルミアは小さく頷いて、目を閉じた。
しかし眠りにつかないよう、手をぎゅっと握りしめる。
結局、王子が寝たと思って部屋を出て行くまで、血が出るほど手のひらに自分の爪を喰いこませていた。