蒼月の約束
「ミアをどこに連れて行くつもりだ」

王子は腰に剣を戻し、しかしいつでも引き抜けるよう体勢を整えながら聞いた。

「どこって、女王の城だよ」

まるで王子が、簡単な質問の答えも知らないのかとでも呆れた物言いだ。

「ミアは渡さない」

「このままだと、エルミアちゃん。命落とすけどいいの?」

いきなり先ほどまでの能天気な言い方から変化した。

声にはとげとげしさが含まれている。

「どういうことだ?」

言葉を失った王子の代わりにグウェンが聞いた。

「もう薄々は分かっているんじゃない?エルミアちゃんの、あの容体。女王の呪いだって」

レ―ヴは続ける。

「女王が誰かを意のまま操るのは、心を蝕んでから。女王なくしては生きていけない。なぜなら、もはや一人では生きられないから。誰の声も届かない。肉体より先に心が死ぬんだ」

「し、しかしミアさまは一度も、女王とは…」

サーシャがエルミアの腕を掴んだまま言った。

まるで絶対に離さないとでもいうように手に力を込める。

「分かってないな。女王本人なんていなくても、心を病ませる方法はいくらでもあるでしょ」

そう言ってレ―ヴは、エルミアの方に瞳を向けた。

「例えば、竜宮城とか」

エルミアはハッと息を飲んだ。

思い出したくない記憶が、またもや鮮明に蘇る。

「も、もしかして…」

かすれる声でエルミアは聞いた。

「私の心を支配するために、セイレーンを…?」

「まあね。言うなれば、彼女は君をおびき寄せるためのただの餌だったってこと」

レ―ヴは冷たく言い放ち、立ち上がって王子の方へとゆっくり歩み寄った。

「だから、このままだと彼女は危険なの」

「だからと言って、連れて行ったあとミアが無事という保証はない」

王子が鋭く返す。

「いや、女王はエルミアちゃんを生かしておくよ」

「なぜそう言い切れる」

低く唸るようにリーシャが聞いた。

「精霊召喚に、エルミアは必要不可欠だから」

そう言ったレ―ヴの瞳に影が落ちる。

しかし、ぱっと顔を上げた時にはその影は全くなくなっていた。

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