蒼月の約束
第二十八話
飛ぶように駆けるレ―ヴの背中に乗り、長い時間が経った。
頬を触れる風が気持ちいいと感じていたが、湿気を含んだ空気とむっとする熱気に囲まれたかと思うと、いきなり呼吸がしづらくなった。
熱い空気が一気に肺に押し寄せ、思わず咳き込む。
それに気がついたレ―ヴが言った。
「もう着くよ」
どこか地面に降り立ったと、背中に伝わる振動で分かった。
レ―ヴはすぐにエルミアを降ろし、隣に立たせる。
体の震えは少しばかし収まったとはいえ、レ―ヴに体重を預けないと真っすぐ立っていることもままならない。
レ―ヴは無言で、エルミアを支えながら歩き始めた。
熱気に覆われた女王の城は、赤黒いレンガや荒々しく削った岩で建てられており、重厚感があった。
薄暗い場内には、ところどころ今にも消えそうなロウソクが何本も揺らめいている。
象牙色の大理石で創り上げられた空高くそびえ立つ王子の宮殿に比べると、ここは何とも落ち着かない場所だった。
大小さまざまな石畳の上をおぼつかない足取りで歩いていると、床に振動が響き渡った。
地震かと身構えたが、それは目の前から歩いて来る人物の足音だと分かった。
壁にかかったロウソクに照らされたその生き物を見て、思わずエルミアは悲鳴を上げそうになった。
2メートル以上はあるだろう巨大な体は、エルフを三人以上横に並べても裕に余るくらいだ。
目は黄色に怪しく光り、大きな体に似合わない小さな丸い顔には乱れた歯並びの悪い口が歪んでいた。
「そこにいるのは誰だ?」
地響きを鳴らしながら、その巨大な生き物はレ―ヴとエルミアに向かって聞いた。
ざらざらとした不愉快な声だ。
「僕だよ」
一方でハープのような声色のレ―ヴが答えた。
「レ―ヴか」