蒼月の約束

その人物の目には、大粒の涙が溢れていた。


エルミアの恐怖に駆られた姿を見てもなお、ふらふらとした足取りで近づいて来る。

「嘘でしょ…」

目の前の人物がそう呟いた。

エルミアは泣いている見覚えのない女の子を見つめた。

その女の子は、一度足を止めたかと思うと、いきなり駆け出し勢いよくエルミアに抱き付いた。

「お姉ちゃん!!」

一瞬の出来事に、エルミアは呆然とし、言葉を失った。

「お姉ちゃん!お姉ちゃんでしょ!会いたかった…」

腕に力を込めて女の子は泣き叫んだ。

抱きしめられた勢いで、肘が石の壁に当たり、痛さに思わず顔をしかめる。

腰に抱き付いている女の子も気がついたようだ。

エルミアの胸元に顔を埋めて泣いていたが、体を離しエルミアの足を見た。

「お姉ちゃん、ケガしてる!さっきのトロールの仕業ね…」

下唇を噛んで、女の子は言葉を吐き出した。

それから、見慣れない服の裾を破いて、エルミアの足に巻き付けた。

そのテキパキとした行動を凝視するしかないエルミア。


この世界のものとは思えない奇妙な服装に、不自然な茶色の髪。

瞳は黒く、耳はエルフのようにとがってはいない。

自分に似ている個所がいくつかあるのに、全く身に覚えがない女の子。

「…誰、なの?」

何かの勘違いを起こさせているのであれば、そうそうに誤解を解かないと。

きっとこの子は、私と同じ人間だ。

そして大きく見開かれた、自分と同じ黒い瞳を見つめた。

「お姉さんを探しているの?」

「覚えてないの?私のこと…」

ショックで見開かれた目から、またもや涙があふれ出す。

「私だよ!亜里沙!私は、朱音お姉ちゃんの妹でしょ!」

あ、かね…?

エルミアは肩を大きく揺さぶられた。

女の子とは思えないほど強い力だ。

何かを訴えようとしているのが伝わるせいか、それに抗えない。

「わ、私はエルミア…」

慌てて自分の名前を出すが、女の子の激しい声でかき消される。

「お姉ちゃんは、朱音でしょ!思い出せ!四宮朱音!!」


< 239 / 316 >

この作品をシェア

pagetop