蒼月の約束
第四話
「朱音、朱音!」
お母さんが呼んでいる。
朱音はゆっくりと瞳を開いた。
お母さんが、心配そうな顔をして朱音の顔を覗き込んでいる。
「こんなところで寝ていると、風邪ひくわよ?」
重い体を起こすと、見覚えのある実家のリビングにいた。
いつの間にか畳の上でうたた寝していたようだ。
置いてある茶色い長テーブルの反対側で、亜里沙が呑気にアイスを食べながらスマホをいじっている。
その隣では、満おばあちゃんが静かに新聞を読んでいた。
「大丈夫?汗めっちゃ、かいてるけど」
亜里沙が目の前の朱音を見つめながら顔をしかめた。
「超怖い夢見た…」
消え入りそうな声で、朱音は呟いた。
「え、どんな夢?」
アイスの棒を口にくわえながら、楽しそうに身を乗り出す亜里沙。
「思い出したくもない…」
朱音は額の汗をぬぐった。
「朱音もアイス食べる?」
キッチンからお母さんが言う。
「うん、ありがとう」
朱音が立ち上がろうとすると、妹がぐっと腕を掴んだ。
その力が強くで、朱里は一瞬ドキッとした。
「な、なに?」
「面白い夢の話してくれないと、離さない~」
声の調子は軽いのに、腕に込められた力はとてつもなく強い。
「ちょ、ちょっと痛い。ふざけないで…!」
「もう、一体どうしたの?」とお母さんが声をかける。
「亜里沙が…」
キッチンから顔を出したお母さんに助けを求めようとしたが、言いたいことが一瞬にして消え去った。
お母さんが笑顔のまま槍を持って、朱音に向けている。
「お、お母さん…?」
「気を付けな、朱音」
いつの間にか隣に来ていた、満おばあちゃんも同じ槍を持ち、朱音に向けていた。
「お前の中の精霊を解放しなきゃダメだよ」
「な、なに言ってるの?ねえ、みんな、おかしいよ?」
この危険な状況からとにかく逃げようと、妹、おばあちゃん、お母さんから離れようとするが、いきなり声が出せなくなった。
いつの間にか、タオルが口に回されている。どんどん増えて行く槍が、一歩一歩自分の方へと近づいてくる。
朱音は、声にならない悲鳴を上げた。