蒼月の約束
「お姉ちゃんが消えたあと、私たち、普通の生活に戻ってたの。自分でも良く分からないけど、お姉ちゃんがいなくなったことは気づいていなかった。別のお姉ちゃんがいたから」
朱音は頷いた。
王子に鏡の中から家族を見せてもらったことがある。
その時に、自分より何倍も美しい代わりの自分が、家族と幸せそうに暮らしているのを見た。
「でも、夢でね。何度も話しかけてくる声が、本当の姉を探しなさいって言い続けてたの。何回かあの鏡の湖に行っては、何か忘れていることを思い出そうと頑張ってたんだけど。ある時、湖の側に行くと必ず思いだす曲を口ずさんでみたんだ。今考えると、あの歌は、お姉ちゃんがいなくなる前に、歌ってた曲なんだよね」
そして亜里沙は朱音を見つめた。
「そして気づいたら、ここに来てた」
「つまり、あの蒼月の日に召喚されたのは亜里沙だったのね…」
朱音は一人でに呟いた。
自分が、自分の意思でこっちの世界にとどまることを決めた日を思い出す。
向こうに帰る私を、女王が邪魔しない訳がない。
よく考えるといきなり水が引いたのは、すでに女王が亜里沙を召喚していたからなのかもしれない。
「女王には会ったの?」
そう尋ねると亜里沙は突然、震え出した。
「怖かった…」
朱音の手を離し、自分の体に巻き付ける。
「何があったの?」
亜里沙の肩に手を置き、真っすぐに瞳をのぞき込む。
「分かんない。弱っている女王を助けるのが私の役目って言われて…。毎日、女王と対面するの。何かされるとかじゃない。ただ女王と会うだけ。でも、あの瞳を見るたびに自分の中の何かがどんどん吸い取られていくのが分かった…。自力で立つことさえ出来ない日が増えていって…」
弱っていた女王が、回復した理由。
それが自分の妹がいたからだなんて…
「そのうちに私は必要なくなって…。それ以来ずっとここにいる」