蒼月の約束
エルフ間の戦争の発端にもなった悪の根源。
王子を除いた王族が壊滅したエルフたちの悪夢。
女王が王妃の命を奪うために送りつけたとされる呪いのネックレス。
女王はまるで懐かしいものを見るかのように目を細めた。
「またここでお目にかかるとは」
それから扉の外に向かって声を上げた。
「話はついた。連れて行け」
重いものを引きずる音を響かせて扉が開き、レ―ヴが颯爽と入って来た。
青ざめて硬直している朱音の腕を掴み、女王に一礼すると、無言のままサウナのように熱く息苦しい廊下を歩き始めた。
「…地下牢へ連れて行って。亜里沙に会いたい」
女王の側では背筋が凍るほど寒かったのに、今では呼吸するのも大変なほど暑い。
肩で息をしながら朱音はレ―ヴに言った。
とにかくどうにかしないと。
このままだと私たちも王子も危ない。
レ―ヴとちゃんと話をするためにも、今は誰の目にも触れない安全な場所に行きたい。
しかしレ―ヴは黙ったまま足を止めず、地下牢の方とは別の方へと朱音を連れて行く。
「レ―ヴ、地下牢へ連れて行って…!」
周りに気味の悪い生き物がたくさんいるせいで、大声で話せない。
強く握られている腕を離そうともがくが、びくともしない。
「レ―ヴ!」
熱い空気のせいで呼吸ができないというのに、朱音は必死で叫んだ。
「もう、遅い」
その言葉の意味が分かったのは、レ―ヴに連れて来られた女王の城の一番奥にある古い塔に来てからだった。
城内は生き物でごった返していたのに、この塔の付近には門番一人いない。
レ―ヴが手を回したのか、それとも元々いないのか。
あまりの静寂に気味が悪かった。