蒼月の約束
第三十話

まるで自分のものとは思えない足が、精霊の塔へと朱音を向かわせる。

レンガ造りの巨大な塔。その先端は雲を突き抜けているほど高い。

石造りの台座には、四つの精霊の道具が置かれていた。

辺りは薄暗く、太陽光など当たっていないのに、それぞれが不思議な色を放っていた。

その前に女王が一人ひっそりと佇んでいた。

「来たな」

振り返らずに女王が言った。

はっきり伝えるつもりだった。

もうやめて、と。

しかし、女王の方が一枚上手だったのは明らかだった。

「な…」

亜里沙がいた。

さっき塔で見た時とほぼ変わりがなかった。

立っているのに、眠っているようにも見えた。

「起きろ、客人だ」

醜く笑う女王の隣で、頭をもたげた亜里沙の口が不自然に動いた。

「お姉ちゃん…助けて…」

それが本当に彼女の声だったのか定かではない。

しかし、朱音の決心を揺さぶるには十分すぎる効果があった。

「亜里沙…!」

「おっと。それ以上近づくと、命の保証はないぞ」

女王がそう言うたびに木の枝がまるで生き物のように亜里沙の体に巻きついた。

朱音は慌てて足を止めた。

「お前次第だ。私の願いを叶えればお前も妹も生きて帰してやる」

朱音が何か言いかけたその時、女王が醜く笑った。

「主役が揃ったか」

そう呟くと同時に、王子が女王の目の前に飛び出してきた。

後ろには数十名のエルフ軍も従えている。


先ほどのトロールたちとの闘いより数が減っている気がする…

朱音は嫌な予感を思考から追い出すように頭を振った。
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