蒼月の約束
エルフたちは皆、体の至る所から出血していた。
立っているのも辛そうな程、深く痛手を負っている者もいた。
「その娘を返してもらおう」
王子が口を開いた。
鈴の音のようなしかし凄みのある声が響く。
「断る」
まるでその女王のその言葉を待っていたかのように、今度は森に隠れていた女王の配下たちが王子たちを迎え撃った。
先ほどまでの戦闘を好むトロールたちではない。
老若男女のエルフやドワーフたちだった。
心を操られているせいか目は虚ろで生気が感じられない。
「誰一人傷つけるな!」
王子が叫ぶ。
自分たちに襲い掛かってくる者たちが、何の罪もない生き物たちだと知ると、戦うに戦えない状態になっていた。
女王はこれを分かっていて村人たちをおびき寄せていたんだ。
王子との闘いを見据えてここまでしていたんだ。
目の前の悲惨な戦いを、指をくわえてみているしかないほど無力な自分。
朱音は唇を噛んだ。
「し、しかし…王子!」
髭の長いドワーフが振りかざした重い斧を受け止めながらグウェンが指示を仰ごうとする。
王子は頑なに首を横に振った。
「罪のないものを傷つけることは許さない…」
「しかし…!」
あっという間に形成逆転し、残り少ない数人のエルフは倒れ、王子たちは捕られた。
「甘いな…。相変わらず甘いな、王子」
低く響く声を出しながら女王は愉快そうに笑った。
「王子に手を出したらただでは済まないぞ!」
グウェンが最後の王族である王子を守ろうと必死にもがくが、数人のドワーフやエルフに捕らえられている為びくともしない。