蒼月の約束
「まあ、慌てるな。面白い見世物に観客はつきものだ」
いとも簡単に抑え込まれたエルフたちを見て満足そうにしている女王は、鋭い眼光を朱音に向けた。
「さあ、始めようか。予言の娘よ」
朱音は震える手で服の裾を掴んだ。
王子やグウェン、そしてリーシャ、サーシャ、ナターシャが自分を見ているのが痛い程に分かる。
本当は助けたかった。
みんなを。
王子を。
この世界を。
だけど…
朱音の瞳は女王の横で眠っているように見える亜里沙に釘付けだった。
「ごめん、みんな…。やっぱり私…。妹を助けないと…。私のたった一人の妹だから…」
「ミアさま、いけません!」
皆が一斉にそう叫ぶ声が聞こえる。
朱音が台座に近寄り、近くにあった桃色の石を手に取った。
温かい感触が手のひらに広がる。
精霊召喚の方法など、知らないはずなのに、その時は何をすればいいかはっきりわかっていた。
ただ頭の中に流れてくる音楽を口ずさむ。
すると手のひらの石から赤い光が飛び出して来た。
〈我は、火の精霊サラマンダー也。呼び出したのはお前か〉
朱音は頷いた。
〈願いは?〉
〈女王に更なる力を〉
そう朱音が言うと、〈御意〉という声と共に目の前にいた赤い光は消え、その代わりに女王の周りに光が集まる。
まるで火の粉のように光は踊るように舞い、女王の体内に吸い込まれるように入っていった。
女王の体が震えた。
「凄い…凄いぞ!この力…もう何年も待ちわびたこの力!」
すると女王が何やら早口で呪文を唱えた。
一瞬にして王子が女王の手中にいた。