蒼月の約束
反応の遅れた王子が何か反対呪文を呟いたが、あっという間にはじかれた。
「王族のか弱い魔法など効かぬ」
不気味に笑う女王。
「力が…力がみなぎってくる…!」
そしてまたもや早口で何か呪文を唱える。
空は墨を塗りつぶしたかのように真っ黒になり、一切の光が消えた。
塔にある精霊の道具だけが不気味に輝いている。
その時、巨大地震のように地面が揺らぎ、突然下からボコボコという不吉な音と共に蔓の長い植物が生えて来た。
味方や敵など関係なく、自分の手下まで見境なく襲っている。
様々な種族の叫び声が塔に反響し、耳の奥まで響いてくる。
悪夢のような光景だった。
「…やめて」
朱音は震えながら女王に訴える。
「もうやめて!」
もはや人間の原型をとどめていない女王がそこにはいた。
目は赤くぎらつき、大きく広がった口からは白く尖った牙が見え隠れしている。
腰まで伸びていた漆黒の髪は、意志を持った黒い蛇のようにうごめいている。
灰色の骨ばった醜い手には、王子の白く透き通った首が収まっていた。
「さあ、次の願いだ。王族の血筋を少しでも持つ者たちをこの世界から消し去るのだ。寸分の狂いなく根絶やしにしろ!」
…怖い。
恐怖で全身が冷たくなり、歯がガチガチ鳴っているのが分かった。
もう…嫌だ…
みんなが苦しむ姿を見たくないのに、女王に逆らえない…
制御出来ないほど震える顎をどうにか動かし、黄金の羽根を手にし脳内の歌を口ずさむ。
〈我は、風の精霊シルフ也。願いは?〉
〈お、王族の…〉
召喚された緑色の光に願いを告げようとしたその時、
―声がした。