蒼月の約束


お主ならこの世界を救える。

呼び出せ、大精霊を。

呼び覚ませ、エノルム・スピリットを。



脳内に響くハッキリとした強い声。目の端に巨大な翼を見た気がした。

たったそれだけの事だったのに、冷え切っていた体が温かくなり、いきなり勇気が奮い起こされた。


目の前に浮かんでいる精霊に言った。

〈エノルム・スピリットと取引したい〉

沈黙があった。

〈大精霊を呼びだすのは、私一人の対価では見合わない。三つであれば可能だが、願い事は一つだけになり、その分の代償もある。それでも良いのか?〉

朱音と精霊との話の内容が分からない女王は凄い形相で睨んでいる。

こいつらの命運は私が握っているのだぞ、忘れるな。
そう言っている。

〈それでいい。大精霊を呼びだしたい〉

〈御意〉

シルフがそう答えた瞬間、台座においてあった他の二つの道具もその場から消えた。

と、同時にその場に巨大な鏡が出現した。

「何をしている…!」

女王の声が響くが朱音は真っ直ぐ前だけを見ていた。

表面が水面のように揺れている鏡には何も映っていなかった。

〈私はエノルム・スピリットと取引がしたい〉

そう鏡に向かって叫んだ。

〈その代償は?〉

鏡の奥から静かなる声が聞こえた。

〈私〉

強くはっきりと答える。

何を言っているのか分からないが、交渉が良くない方向へと行っていると勘付いたのか女王が叫んだ。

「娘!勝手なことをしてみろ。お前の妹が…」

〈いいだろう。交渉成立だ〉

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