蒼月の約束
数人のメイドが朱音に駆け寄り、未だ滑稽な姿で倒れている朱音を抱き起す。
その時に、見てしまった。
まるで絵画のように整った顔の美しい女性たちの耳が、自分の丸みをおびたものと全く違うことを。
「どうかしたのか?」
透き通るような、耳に心地よい声を響かせてやってきたのは、白いローブに金色の帯をした王子だった。
その瞬間、朱音は全てを思い出した。
あれは、夢じゃなかった…。
怖い夢だと思っていたことが、夢ではなく、実家で目覚めたことが本当の悪夢。
妹をかばったこと、水に引きずられてここにやって来たこと。
槍を突き付けたられたこと。
全てが一瞬にして記憶によみがえった。
「嘘でしょ…」
床に未だ座り込んだままの朱音を見て、王子は近くにいたメイドに「お茶を」と言い、朱音の腕を掴んで近くのソファーに座らせた。
「飲むんだ」
メイドが持ってきたお茶が、王子と朱音の真ん中に置かれたテーブルに用意されていく。
不思議にカーブしているティーカップに、薄いピンク色のお茶が注がれていく。
その中に、ピンクとうす紫が混ざった小さな花も浮かんでいた。
得体の知れないものに手を出したくはなかったが、皆の視線が痛いので、言われた通り一口すすってみた。
・・・美味しい。
優しい甘さで、しかし後味はすっきりしている。
今まで味わったことのない、お茶であることは確かだ。
温かいものがすっと胃を通り、体全身に安心感がめぐっていく。
一杯を飲み終わった時には、自分でも信じられないくらい不安が消えていくのが分かった。
「あの、私は一体…」
落ち着いて余裕が出て来た朱音は、おそるおそる口を開いた。
「ここは、エルフの国グリーンフィールド。私は、その国の第一王子である」