蒼月の約束
「両親を探しに行く」
ヘルガがそう言い出したのは、厳しい冬の寒さが過ぎ去ったころだった。
その頃には、少女は急激に成長していた。
森での過ごし方は兄が全て教えてくれた。食べられる植物や動物、そして獰猛な獣の倒し方。生きていくには十分すぎるくらい知恵も体術も心得ていた。両親と共に今まで逃げることしかしてこなかった少女にとって、彼の教えは、生きるのに欠かせないものとなっていた。
兄の家は、人里離れた森の中にあった。なぜこんなにも不便で、常に危険と隣合わせの場所に住んでいるのか。普通の人であれば不思議に思ったであろう。しかし、逃亡生活しか知らなかった少女にとっては、どんなに猛獣と出くわす機会があったとしても、帰る場所があるというだけで幸福だった。
喜々として言う少女に、ダヨンは一瞬顔を曇らせた。
「今なら山を越えられるだろう?」
「そうだな。一緒に探しに行こう」
顔を上げた時にはいつものように、太陽のように温かい笑顔に戻っていた。
山を越え、ヘルガの記憶を頼りに両親とはぐれた場所へと向かった。
目の前の光景を見て、二人とも口がきけなかった。
村は、少女が記憶していた面影もないくらい荒れ果て朽ちていた。人影も生き物の気配もない。まるで巨大な突風が巻き起こり、全てをさらって行ってしまったのかのように。