蒼月の約束
明らかに様子がおかしいとダヤンが気付いたのは、前よりもいい食事をしているはずの少女の体がどんどんやせ細り、気力がなくなっていた時だった。
ある朝、ベッドから起きられない少女におかゆを食べさせたあと、ダヤンは家の周りを見回りに出かけた。
ずっと元気にしていた妹が、いきなりこんなにも病弱になるのはおかしい。
そして見つけてしまった。
真っ黒に枯れ果て、死の森と化した場所を。
少し前までは獰猛な動物がウロウロしていたにも関わらず、生命の存在は全く感じられない、混沌とした場所。
「…一体」
その中で一段と黒さが目立つ木を見つけた。
まるで触ったら崩れ落ちてしまいそうな、木炭化した木のほらの中に魔術の本を見つけた。
見つからないように丁寧に、枯れ葉で隠してあるが、本から発せられる邪悪なオーラを隠せてはいない。
「…あいつ」
ダヨンはそれを直に触らないように、腰に付けていた布で巻き、家に持って帰った。
ヘルガはベッドの端に座り、兄の帰りを不安げに待っていた。
そして兄の険しい顔と右手に抱えている包みを見て本の場所を知られたことを悟った。
怒鳴られることは、承知していた。
だから兄が手を上げた時には、殴られると思い、両目をぎゅっと瞑った。
しかし兄の大きな手は、少女の細い肩に添えられた。
「なぜ…言うことを聞かなかったんだ」
苦しそうな兄の言葉に、ヘルガは目を開いた。
「お前の両親と同じ目に遭いたいのか?」
「…この本に、何か関係が?」
「ソー族だ」
「……」