蒼月の約束
自分がソー族の生まれであることを口にするなと言われていた。
一体、それがこの本と何が関係あるのだろう。
ダヨンはため息を吐き、ヘルガの横に腰を下ろした。
「そろそろ、話しておいてもいいだろう」
日に焼けて元気そうに見える兄の顔は辛そうに歪んでいた。
「ソー族は、黒魔術で有名な一族だ。魔術は基本、王族の血を受け継いでいるものしか使えない。今の王に政権が交代してから、黒魔術の生まれである一家は一掃するようにと命が出た。おそらく、自分たちの身を脅かす一族を残しておきたくなかったのだろう」
少女は視線を外さずにじっと兄を見つめた。
「お前の両親を探しに行った日を覚えているか。あの旗は王族のものだ。お前の両親はずっと王族から身を隠して生きていた」
「でも二人が魔術を使っているのをみたことがない…」
これは本当だった。
どんなに辛くてもひもじい思いをしても、魔術を使って何かすることは一度もなかった。
だからこそ、自分にこんな能力があるのが不思議だったのだ。
「もし…、もし魔術が使えるなら使えばよかったのに!なぜ自分たちが辛い思いをしてまで、我慢なんか…」
「きっと周りと、他のエルフたちと同じになれるよう努力していたのだろう。お前を危険にさらない為にも」
何故かは分からないが自分の中に怒りにも似た感情が湧いてきた。
なぜ両親は痛い目を見ながらも耐えていたのだろう。
こんなに大きな力を、王族がおびえるほどの力を持っているのに、なぜ苦しい道を選んだのだろう。
自分たちを不幸にした王族に刃向かうことなく、ただ言いなりになって結局殺されてしまった両親に憤りを感じた。