蒼月の約束
王子がはっきりした口調で言った。

昨日のように威圧的ではなく、耳に心地よい優しい話し方だった。

ぱっちりとした目は、スカイブルーに輝き、白に近い柔らかそうな金髪は、肩を流れている。
血色のいい白い肌も陶器のように滑らかだ。
細長い指が上品に膝の上で組まれている。

この世のものとは思えない美しさだ。

ぼーっと王子に魅入っていた朱音は、今しがた入って来た情報に我に返った。

「え、エルフ…?」

エルフって、あの?えっと、妖精ってことだよね?

ファンタジー映画のシーンを慌てて思い出す。

仕事が忙しくなってから、ファンタジーの世界に浸かることが少なくなったが、小さい頃は貪るようにのめりこんでいた気がする。

「そうだ」

頷く王子と、その周りに行儀よく立っている人たちを観察する。

確かに人間とは思えない美貌を持ち、身長はほとんどが180㎝以上はありそうだ。

そしてエルフを代表する、尖った耳をしている。
男性も女性も全員髪の毛は、白みがかった薄い金色のストレートで、膝の裏まで伸びている。

「お前はおそらく、西の女王に召喚されたのだろう」

王子が呟くように言った。

「な、なんで…ですか?」

西の女王と言った、王子の顔が強張る。

「私たちの国はずっと女王に支配されている。しかし、最近、女王の力が弱まり始めたと聞いた。それがきっとお前に関係する」

「はぁ…」

先ほどからちくちくと視線が刺さるのが気になる。

王子の話半分に朱音は、周りの人たちを見渡した。
みんな美しい顔をしているにもかからず、表情は乏しく暗い。

朱音と目を合わせるものは一人もいない。


居心地が過度に悪い原因はこれだ…


朱音は、不快感を覚えずにはいられなかった。

しかし理解は出来る。
いきなり得体の知れない人種がやって来たのだから。

「あの…」

王子が話すのをやめたところを見計らって、朱音は口を開いた。

「私、どうやった元のところに帰れますか?」

一刻も早くここから離れたい。

エルフの国なんて、物語の中だけで十分だ。

絶世の美男美女で一生満足するくらい目の保養もしたし、もう居心地のいい家に帰りたい。

しかし王子は、首を振った。
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