蒼月の約束
ヘルガは大声で叫び、蘇生の魔術を口早に唱えた。
横たわっている兄の体の周りに黒い煙が渦巻き始め兄の心臓を包みこんだ。
しかし、兄はぴくりとも動かない。
体中を走り廻っている持ちうる魔力を使い、記憶しているどんな呪文を唱えても、すでに息を引き取っている兄を蘇らせることが出来なかった。
最後の力を使い果たすまで少女の試みが終わることはなかった。
兄との思い出が残る家の前で、兄の亡骸と共に数日を過ごした。
そして幾日か経ったある日。
少女は決心したように立ち上がった。少しずつ取り戻し始めた魔術で兄を家の中で運んだ。
「私が必ず」
少女は決心したように小さく、しかし力強く呟いた。
「必ず復讐するから」
もうそこには昔の少女の面影などない、漆黒に不気味に輝く髪を携えたヘルガが立っていた。
悲しみでおぼれた瞳は復讐で燃え、鮮血のように赤く光っていた。