蒼月の約束
今までになく幸福に包まれた毎日に、いつの間にか復讐で支配されていた黒く渦巻いていた気持ちが、消え失せていることにも気づいてなかった。
ヘルガが実の姉のように慕い、ダヨンが密かに片想いをしていた貴族の娘ロダウェンは、皆に祝福され王族の仲間入りを果たした。
両親も今住んでいるところで村のエルフに歓迎され、何かあれば頼られている存在だ。
また病人を治すために昼夜通して忙しく働いているが、誰かの役に立てると、二人ともこの上なく幸せそうだ。
どこか懐かしさを覚える小屋のような家。
木でできたドアを開けると中から楽しそうな笑い声が溢れていた。
「ダヨン、今日もうちで夕食食べていくでしょ?」
明るい女性の声がした。
「もちろんですよ。うちの両親も後から来ます」
着ていたコートを壁にかけ、ダヨンが嬉しそうに答える。
「いつも美味しいワイン頂けて嬉しいよ」
椅子に座っている男性が低い声を響かせて言った。
理由も分からず、懐かしさと愛おしさで胸が高鳴った。
「父さん、母さん…」
そう呟いた時、全員がまだ戸口に立っているヘルガに気がついた。
「おかえり、ヘルガ」
二人が笑顔で同時に言った。
少女は目に涙を浮かべて家族の元へと駆け寄った。