蒼月の約束
「分かった。邪魔したな」
「おい、これは…」
アゥストリが笛を持ち上げる。
「持ち主に返す方がよいだろう」
「身に覚えが全くないんだがな」
腕を組んで不思議そうな顔をしているアゥストリは、アルフォードがテントの入り口に手をかけた時、あっと声を出した。
「おい、ちょっと待て!」
アルフォードは手を止めて振り返った。
バタバタと巨大な木箱の中から何か探している様子を見つめる。
「俺のところにも何か妙なものがあったんだ…」
そして奥底から何かキラリと光るものを取り出した。
「これ、エルフのものだろ」
アゥストリの手には星形のネックレスが握られていた。
揺れるたびに光を受けて虹色に輝くネックレスは、確かにエルフの能力を持ってでしか造れない代物だ。
一見シンプルに見えるが、細部には極小のダイヤがはめ込まれるなど、細微にまでこだわりが見える。
「これをどこで…」
ネックレスを受け取ってアルフォードが問いかけた。
頭をがしがしと掻きながら困ったようにアゥストリは答える。
「数日前か。
真夜中によ、巨大な鳥が窓辺に止まっているのが見えたんだ。
何か俺に言ってた気がするんだが、夢かうつつかはっきりしなくてな。
で、起きたら窓辺にこれが置いてあった」
「これは恐らくウィンズ家のものだ。
母が似たようなものを付けていたのを、幼少の頃に見た覚えがある」
「ウィンズ家…。
エルフの貴族か。
まあ、一瞬でエルフの所有物だと分かったが、エルフの王宮からはここまではかなり距離がある。
俺たちドワーフとエルフの関係を知っていて、誰かが置いて行ったとは考えにくい。
しかし、捨てようにも捨てられなくてな…」
不思議な光を放っているネックレスを見ながらアゥストリは言った。
「聞こえは変かも知れないが、俺にも大事なものって伝わって来たんだ」
そこまで言ってアゥストリはぎょっとした。
「ど、どうしたんだ」
うろたえるアゥストリの声で、王子は自分の頬に流れるものに気づいた。
「分からない。なぜか出てくる…」
「誰の物かは知らないんだろう?」
「ああ」
毎朝起きるたびに、何か奇跡が起きるのを期待している自分がいる。
この虚無感を埋めてくれる何かが、訪れやしないかと待っている自分がいる。
「ずっと胸が苦しいんだ。どうしようもない程…」
アゥストリの視線を感じてアルフォードは首を振った。
一体何を口走っているのだ、私は。
アルフォードは姿勢を正して踵を返した。
「邪魔したな」
「見つかるといいな、その大事なもの」
いつも喧嘩を吹っかけてくるドワーフが珍しく優しい言葉をかけた。