蒼月の約束
なに不自由なく、という王子の言葉は、朱音にとってとんでもなく厄介なことだった。
何をするにも10人以上のエルフが付いて回り「お手伝いします」の一点張り。
朱音は、事あるごとにそれを丁寧に断っていたものの、だんだん億劫に感じ始めていた。
そして、今までとてつもなく忙しい毎日を過ごしていただけに、突然やることがないとなると一日が嫌になるほど長く感じる。
その為、キッチンや掃除中のエルフに声をかけては「何か、手伝えることはありませんか?」と聞いてみるものの、表面上でやりすぎな程、丁寧に断られるのだ。
元々友達が多くない朱音は、そういう対応に慣れていたが、それが何日も続くとさすがに堪えて来た。
朱音の目を見て話すものは一人もおらず、話をする相手もいない。
だんだんと、朱音も「大丈夫です」「ありがとうございます」以外には、言葉も発さなくなってきた。
エルフたちの態度だけでなく、気持ち的に辛いのが、どこへ行っても監視されているという感覚だ。
朱音が、トイレに行くにも10人以上のエルフが付いて回り、朱音が出てくるまで外で待機している。
夜にふと目が覚めた時も、廊下には数人のエルフが交代で見張りについているのに、気づいてしまった。
だんだんと、王子が自分を逃がすまいとしているのが分かって来た。
不自由なく暮らせる、というのはある意味自分をこの宮殿の中に閉じ込めておく口実なのだと。
しかし、朱音には王子が帰り方を見つけてくれるという願望に託すしかなった。
その希望があったから全ては我慢できた。
だが、朱音の腹の中に溜まった黒いかたまりが、とうとう爆発する事件が起きた。