蒼月の約束
優雅に歩くエルミアから目が離せない。

目の前の歌姫はまるで彫刻のように美しい。

同じ能力を持っているなんて信じられないくらい、自分とはかけ離れている。

エルミアの海のように深い青い瞳を見つめて朱音が口を開いた。

「エルミア、やっと会えたね」

エルミアの瞳にみるみるうちに涙が溜まっていく。

そしていきなり、その場で土下座した。

突然のことで朱音があっけに取られていると、エルミアは早口で言った。

「申し訳ございません!アカネさまには、謝っても許して頂けないほどのことを…!わたくしの身勝手な欲から…」

朱音はエルミアの白く透き通った細い腕を抱えて起こす。

「エルミア」

顔を上げる歌姫。

「頭の中でずっと話かけて来てたよね」

長い睫毛から透き通った水が流れ落ちる。

「エルミアも誰かに思い出してもらおうって、封印を解いてもらおうって必死だったんでしょ」

今なら気持ちが分かると朱音はエルミアの腕をさする。

「王子と一緒にいる時に声が聞こえてきたから、王子への気持ちもそれほど強かったんだなって」

もはや嗚咽を漏らして泣いているエルミア。

「本当ではあれば自分がいたところに、私がいたのを見るのは辛かったでしょ」

朱音も涙が止まらない。


みんなが自分を忘れている姿を見続けていた、つい最近まで。


自分の存在がなくても回り続ける世界。


それがどれほど辛いか、朱音には分かっていた。

「私は気にしてないよ。確かにかなり命がけだったけど、全てうまくいったしね」

「アカネさま…」

< 296 / 316 >

この作品をシェア

pagetop