蒼月の約束
第三十七話
その夜、ベッドの上で朱音は天蓋を見つめていた。
大精霊との約束を忘れてはいけない。
人間界に帰る日がくる。
次の蒼月に、強制的に。
大精霊の言葉を思い出す。
【すべてを元に戻したいのであれば、お前はここにはいてはいけない。それがお前の願いなのだろう。選ぶのは二つに一つだ。さて、どうする?】
どちらかを選ぶしかなかった。
人間の世界か、エルフの世界か。
私の居場所は、ここじゃない。
考え事をしていてエルフたちが入って来たのにも気が付かなかった。
「アカネさま…?」
リーシャが顔を覗き込んだ。
「体調でも?」
朱音は体を起こした。
次の蒼月がいつだか分からない。だけど時間がないことは気づいていた。
「ううん、元気だよ」
「お茶、淹れますね」
サーシャがてきぱきと支度をする。
その時、王子が部屋に入って来た。
寝る時用のシルクのローブを着ている。
「さ、昨日は見逃してやったが、今夜からは私もここで寝させてもらおう」
「へっ?」
朱音は思わず変な声を出す。
助けを求めるようにエルフ三人を見つめ、それから扉付近にいるグウェンを見た。
いつもならグウェンが真っ先に抗議するのに、今回に限っては何も言わない。
いつも通り険しい顔をしているだけだ。
「あの、嫌です…」
前使っていた大きすぎるベッドとは違って、今使わせてもらっているのは客人用の部屋だ。
今回は二人で寝るにはベッドが小さすぎる。