蒼月の約束
王と妃が帰ってきたという報告を受けたある夜、すぐさま朱音は呼び出された。
どうしても同席したいという王子を説得して、朱音は一人で王と妃の待つ広間へと向かった。
王と妃が台座に座っている。朱音は膝をついていたが、王の合図で立ち上がる。
「そなたが予言の娘か」
どっしりとした威厳のある声で王が言った。
「そなたの事は全て精霊から聞かせて頂いた」
そう言えば王は風の精霊の予言を受け取れるんだっけ。
「感謝してもしきれない」
二人が同時に頭を下げた。
「この国を救ってくれて、ありがとう」
「感謝しているわ」
朱音は静かに頷いた。
「今回呼び出したのは他でもない。リンディルのことだ」
「そなたとの関係は知っているつもりだ」
朱音は目を見開いた。
ばれていたとは…
「あのような幸せそうな様子を見るのは初めてだ。きっとそなたが変えてくれたのだろう」
「しかし…」
王が言葉を選んでいるのが感じ取れた。
「もし国を去るのであれば、リンディルをこれ以上惑わさないでほしい。忘れさせてやってほしい。あいつはこの国の未来を担う存在なのだ。幸いなことに、エルミアという婚約者もいる。すまぬが、私たちの為に、この国のために身を引いてはくれぬか」
恩人にこんなことを言うのはとても気が引けるが、この国の未来は私たちにかかっているのだ。
王はそう付け加えた。
「道中で私たちは、月の廻りを知る者に会った。そこで聞いたのだ」
王は朱音をまっすぐ見た。
「次の蒼月の日に人間界に帰るのだろう」
ドキッとした。心の底に押し込めていた問題。
でも向き合ないといけない事実。
「せめてもの感謝の気持ちを込めて、その日、そなたを皆で盛大に見送ろうと考えている」
朱音は顔を上げた。
「一つだけ、お願いをしてもよろしいでしょうか」
「なんなりと申せ」
「王子には蒼月の日は、黙っておいてくれませんか?」
「…本当によいのか?」
王が目を見張った。
「はい」
朱音ははっきりと答えた。