蒼月の約束
蒼月の約束


そして一年、二年と時が過ぎた。

「なんか海外から派遣が来るらしいぞ!」

ある日の午後、同僚の一人がオフィスに駆け込んできた。

「しかも神クラスの凄いイケメン!」

ふっと思わずパソコンの液晶の前で笑みがこぼれる。

神クラスって…。

王子たち以上に神々しい生き物なんて存在しない。

どんなにTVでイケメンだの美女だの騒がれていても、リーシャたちを上回る美貌を備えた人にはまだ会ったことがない。

それもそうか。人間じゃないもんね。



亜里沙の言葉は間違っていなかった。

時間が解決してくれる。

時が経つにつれて、眠れない日は減っていった。

思い出しては泣いてしまう日は少なくなった。

心から笑える日が増えた。

だけど、ふとした時に出てくるあの喪失感。

心の中にぽっかりと空いた穴は、何をしても埋まることはない。



「四宮さん、どうしたの?」

隣の席に座っている同僚が声をかけた。

「なんでもないです。目にゴミが入って。トイレ行ってきます」

朱音は体温の上がった顔を隠すようにして、席を立った。

溢れてくる涙をばしゃばしゃと豪快に洗い流す。
化粧が取れるもの気にしない。

しっかりしろ、私。

鏡の中の自分を見つめ、心の中で呟く。

きっとみんなもエルフの世界で頑張っているんだ。

私が泣いてどうする。

私が前に進まなくてどうする。

王子とエルミアが王と妃なら素敵な国になっているはずだ。

あれほど責任感の強い王子なら、自分の責務を全うしているはずだ。

深呼吸をし、頬を軽く叩く。

気持ちが落ち着いて来たのを確認してから、トイレから出た。
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