蒼月の約束


トイレから戻ると同僚たちがそわそわした様子で集まっていた。

「…どうしたの?」

近くにいた同僚に話かける。

顔も髪も濡れている朱音に、顔を一瞬しかめたが、楽し気に答えた。

「そろそろ到着するらしいの!噂の神クラスの…あ、来た!」

そう言って朱音の後ろを指さした。

その場が一気に興奮に包まれた。
女性たちはキャーと叫んでいる。

「お前はいつもびしょぬれだな」

後ろから懐かしい声がした。

幾度となく忘れないように頭の中で反芻した声。

何度も夢に現れたエルフ。

振り返ると、神々しい人物がいた。

ただ立っているだけなのに、まるで絵画のように美しい。

言葉を失った。

膝の裏まであった金色の髪は、耳の上まで短く切られていた。

エルフを象徴していた白いヒラヒラした服装ではなく、人間用の紺のスーツに身を包んでいる。
見た目はがらりと変わっているのに、醸し出す上品で高貴な雰囲気はそのままだ。

また夢を見ているのか。

だとしたら、なんと非情なのだろう。

こんなに時間をかけて、やっと立ち直ってきたというのに。


「アカネ」

鈴音のような声で呼ぶ。

はぁ、幻聴まで聞こえる…

そろそろ本気で医者を考えた方がいいのかもしれない。

「ちょ、ちょっと四宮さん!この方と、知り合いなの?」

先ほどの同僚が後ろから朱音の肩を叩き、小声で聞く。

信じられないと物語っている顔が赤く紅潮している。


私以外にも見えているの?

「え…夢じゃ…」

今までみたいに、幻覚じゃないの?

幾度となく見た、幻ではないの…?
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