蒼月の約束
「夢ではない」
王子は朱音の前に立ち、甘い香りをまとった細長い指で朱音の頬を撫でる。
「泣くな。私はここにいる」
「ほんとに、王子なの…?」
苦笑する王子。
スカイブルーの瞳が細められた。
「本当に私だ」
確認させるように、朱音の手を自分の頬に当てる。
陶器のように滑らかな手触りの肌から、体温が伝わってくる。
本物だ。
「正確にはもう王子ではないが」
「うそ…なんで…国は?エルミアとの結婚は…」
「質問が多いな」
呆れたように笑うアルフォード。
「エルミアとは婚約を破棄した」
「…うそ」
「嘘ではない。そもそも婚約を認めた覚えはなかったんだが、王と妃が勝手に決めていたようだ」
困ったように頬をかき、朱音をさらに近くへと引き寄せた。
「この日をどれだけ待ち望んだか」
「お、王子…」
みんなが、と言いかけて、ぎょっとした。
先ほどから周りが静かだとは思っていたが、同僚たちが全員石のように固まっている。
「少し時間を止めさせてもらった」
まさか人間界でも魔術を使うとは。
「王子~!」
「アルと呼べ」
そう静かに言い、右手を朱音の腰にそして左手を頬に添えた。
全てを見透かすようなスカイブルーの瞳が朱音を捕らえて離さない。