蒼月の約束

「改めて自己紹介しよう。私の名前はアルフォード・イリシオン・リンディル。人間だ」

形の良い唇が、泣いて濡れている朱音の唇に重なる。

二人の間に甘い吐息が漏れた。

一瞬思考が止まる。

「…はっ?」

朱音は体を離し王子を見つめた。

「人間ってどういう…」

「決まっているだろう。精霊と取引したのだ」

信じられない。

何を言っているんだ、この方は。

「精霊って…。もしかして、また…」

「精霊の道具を改めて探すのに苦労して、思った以上に時間がかかってしまったが」

朱音は首を振った。

「ちょ、ちょっと待って…。代償は…」

精霊の道具を集めるには等価交換が必要だ。

「それはな」

王子は後ろを向き、声をかけた。

「お前たち、そろそろ出て来ていいぞ」

見たところ誰もいないが、パンっというラップ音と共に四人のシルエットが浮かび上がった。

朱音は口をパクパクさせた。

リーシャ、サーシャ、ナターシャ。
そしてグウェンまでいる。

「お久しぶりです、アカネさま」

四人がそろって膝をついた。

「うそでしょ…」

「さて、どこが変わったか分かるか?」

王子が楽しげに聞いた。

朱音は四人を見つめた。

「…耳?」

「それはそうだが」

ひと際目立つ変化は、そんな所ではないことはすぐに分かった。

みんな髪の毛が短くなっている。

「まさか…エルフにとって高貴な印の髪を…」

リーシャが短く切った日のことは今でも忘れられない。

エルフにとって命に次に大事な髪を切ることは、屈辱的だとも言っていた。

「グウェンまで…」

短い髪までも美しい人間の姿をしたエルフたちを見渡す。

屈辱的なはずなのに、そんな素振りを全くといっていいほど見せない。
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