蒼月の約束
「おい!しっかりしろ!」
ぐっと体を引っ張られて、朱音は水上へと顔を出した。
今度は勢いよく空気が体内へと流れ込み、苦しい。
薄目を開けると、そこには焦った様子の王子が、朱音を抱きかかえるようにして立っていた。
「お前、自分が何しようとしているのか、分かっているのか…!?」
近くで、大声で怒鳴られているのに、遠くの方でまだお母さんたちが自分を呼んでいる声が聞こえる。
朱音の瞳は王子を見ているようで、全く焦点が合っていない。
「帰りたいの…。私を家に帰して」
肩を揺さぶられてもまだ、現実に戻ってこない目の前の小さな人間を見て、王子は初めてことの重大さを実感した。
この小さな生物が、突然見知らぬ土地に来て、どれだけ心細かったかを、そしてずっと独りぼっちだったということを悟った。
この者にも家族がいるということを、どうして考えなかったのだろう。
自分がとてつもなく不甲斐なく、情けなく思えた。
「お願い…。帰りたいの…」
未だに大量の涙を出して、水に戻ろうとする体を抱きしめながら王子は言った。
「何とかして、お前を元の世界に戻すから。約束するから」
約束するから。
その言葉が強く、朱音の脳内に響き、心に残る優しい王子の声が朱音を現実に戻した。
「すまなかった…」
謝る王子の言葉に、朱音は自分の心が、体が解凍されていくのを感じた。