蒼月の約束
王宮に戻った時には、既に日暮れを過ぎていた。
真っ暗になる前に帰って来られてよかった、と王子が隣で呟くのが聞こえた。
王宮の入り口では、大勢のメイドと側近の男性が青ざめながら、二人の帰りは今か今かとハラハラして待っていたのが見て取れた。
ずぶぬれになった二人の様子を見て、王子の側近が言った。
「すぐ、風呂の用意を。それとタオルだ」
そして王子に駆け寄ると、「王子、その腕…!」と小さく叫んだ。
その時初めて、朱音も王子の服に血が染みているのに気づいた。
「ど、どうして…?」
朱音は、腕と王子の顔を交互に見る。
王子は、腕を隠しながら「気にしなくていい」と言い、「もう自分で治療した」と側近に言うのが聞こえた。
「まさか…」
私を助けた時に?という言葉は、王子によってかぶせられたタオルで消えた。
そして「早く、この者を風呂へ」と命令し、朱音はメイドのエルフたちに半ば引きずられるようにして大浴場へと向かった。
ちょうどいい温度の湯船に浸かると、自分の身体が今までどれだけ冷えていたかを思い知らされる。
骨の髄まで心地よい湯加減が染みわたった。
扉が開く音がして、何人かのエルフが浴場にまで入って来た。
「ど、どうかしましたか?」
朱音は、慌てながら、近くに置いていたメガネをかけ、お湯のなかへ体をさらに沈めた。
こんなぽっちゃり体型を美女たちに見せられる訳がない。
「申し訳ございませんでした」
目の前で突然、数人のエルフが膝を付き、頭を下げたので朱音はぽかんとした。