蒼月の約束
そこには自分がいないはずなのに、5人の人影があるのだ。
いつも自分が座っているポジションには、別の誰かがいた。
朱音と同じ黒髪をしているが、整った美しい顔、そして日本人には到底あり得ない薄い緑色の瞳がちらりと見えた。
「誰…?」
思わず声が裏返る。
嫌な予感がした。
心臓が、体の中で大暴れし、喉の奥までやってくる。
「お前が召喚されたということは、こちら側の世界からも誰かが向うに行っているということだ」
後ろで王子が静かに言った。
「おそらく、女王に生贄として出された娘だろう。お前と違って、記憶は消されているから自分は人間として生まれたと思っているはずだ」
言葉が見つからなかった。
今まで自分がいた場所に、別の誰かが当たり前のように生きている。
そしたら…私の居場所はどこなの?
そんな疑問がまた頭をぐるぐる回る。
頭が重くなったように感じ、足元がふらついて、階段を踏みはずした。
「私…どうしたらいいの?」
気を失う手前で、朱音はそう呟いていた。