蒼月の約束
消灯され、部屋が暗くなった。
あるのは、窓から差し込む月の光だけだ。
どこか幻想的で、自分は今眠っているのか起きているのか分からない感覚にさえなる。
何となく気まずくて、エルミアは布団を顔まで引き上げ、全く眠くならない頭と格闘しながら天蓋を見つめていた。
隣で王子が口を開いた。
声の感じから想像すると、こっちを向いているようだ。
「実は、精霊の書の情報を掴むだけじゃなく、お前の帰り方の聞き込みにも行っていた」
「え?」
思わず横を向き、月明りに照らされた幻のような姿の王子と一瞬目が合う。
しかし、すぐ天井に目を向けた。
「そ、そうだったんですか…」
「月の廻りについて知っている者がいてな。次の蒼月はいつか聞いてきた」
「はい…」
王子の囁くような優しい声を聞いていると、今日の疲れがどっと押し寄せてくるのが分かった。
体の力が抜けるような、安心する声。
「断定は出来ないが、約一か月後だそうだ。
その日は、大雪に見舞われると言われている」
エルミアがいつの間にか眠っていると気づいていない王子は、自分も天井に向き直りながら呟いた。
「精霊を呼び出し、今の状況から脱することは、この国唯一の王族の私に課せられた重要な仕事だ。
お前に使ってやれなくて本当にすまない」
王子の心苦しそうな謝罪は、既に深い眠りについているエルミアに耳に届くことはなかった。