蒼月の約束

窓からは太陽の光がさんさんと降り注ぎ、鳥が楽しそうに鳴いている。

「太古…。(カラス)…?」

とりあえずさっきの言葉を忘れないように、口に出してみる。

「はぁ…私、この世界のこと何も分からないんだ…」

そして寝返りを打って、悲鳴を上げるところをぐっと堪えた。

隣にいる心臓に悪いほどに美しい生き物は、規則正しく体を上下に動かしてぐっすりと眠っている。


「慣れないなぁ…。この美しさは…」

絹のように柔らかそうな流れる金髪に、同じ色の長いまつ毛。

年齢を全くと言っていいほど感じさせない、若々しい、透き通る白い肌に、程よくついた筋肉。

見上げる程身長は高いのに、顔は許せない程小さい。


「エルフってなんなの?ドワーフが敵対視するのも分かる気がする」


健やかに眠っている王子を見ながら、思わず皮肉たっぷりに呟いた。



しばらくの間、静かに寝ている王子を観察していた。

なんだか、吸い込まれるような魅力が王子にはある気がする。

あまりにも艶のある髪の毛に、自分でも気がつかないうちに手が伸びてしまう。


「うわ…本当に髪質やわらか…」

小さな声で呟きながら、王子の髪の毛をもてあそぶ。

少ししたら辞めようと思ったのに、手が止まらず、自分より年も身長もあるだろう王子の頭を撫でてしまう。

あと少し、あと少しと、思っている内に、とうとう王子が瞳を開いた。

「うわあ!」

エルミアは両手を上げて、自分は何もしてないです風を装う。

「…何か聞いたか?」

王子が眠そうに枕に顔をうずめながら聞いた。

相変わらず低血圧そうな王子は、普段はシャキッとしていてかっこいいのに、寝起きはとんでもなく可愛らしく見えてしまう。


「聞きました」

エルミアは起き上がり、まだ横になったままの王子に言った。

「でも、途中から砂嵐みたいなザーっていう音で聞こえづらくなっちゃったんですが…」

王子が瞳を閉じたので、考えているのか眠りに戻ったのか分からなかったが、エルミアは続けた。

「聞こえたのは、太古、と鴉だけです」

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