蒼月の約束
お昼前に、既に王子が宮殿を離れたと聞いてエルミアはがっかりした。やはり、何か分かったようだ。
前回と同じく、側近のグウェンと数人の衛兵を連れて、北の方へと向かったという。
「教えてくれてもいいのに…」
一人寂しくランチを食べながら、エルミアは不満そうにつぶやいた。
「みんなも一緒に食べて」
エルミアの上下関係ない(王族ではあり得ない)要望に応えることに慣れて来た三人は、あたかも当たり前のように席に着いた。
「ヒントを受け取ったのは私なのに…」
目の前のパンを見つめながら、エルミアが言うと、サーシャが楽しそうに言った。
「それで、どうでしたか?王子と一晩過ごすのは?」
「サーシャ」
すかさずリーシャがサーシャをたしなめる。
「私も知りたーい!」
エルミアの真向かいに座っていたナターシャが、身を乗り出した。
「何もないよ…。王子がまだ何か話している間に、寝ちゃったし…」
「はっ?」
三人一斉にフォークを落とした。
「リーシャまで…」
「すみません、驚いたもので」
リーシャが顔を崩さぬまま、フォークを拾った。
「なんで、なんで?」
ナターシャが、半ば憤りながら言った。
フォークはそっちのけだ。
「だ、だって…。王子の声って、なんか子守歌みたいなんだもん」
自分で言っているのも恥ずかしくなってきた。
顔が赤面するのが分かる。
「王子が話されている最中に眠るだなんて、ミアさましか出来ないですよ」