蒼月の約束
サーシャが食事を再開しながら、呆れたように言った。

「うう…」

こんなに責められるとは思わなかったエルミアは、その怒りの矛先を王子に戻す。

「だって、精霊の書について考えるの疲れちゃったんだもん!
もう喧嘩してないで、ドワーフとかに聞けばいいのに!」

そう言って、はたといいことを思いついた。


「ダメですよ」

それが顔に出ていたのか、リーシャが先に言った。

「いいじゃん~。王子も不在なんだし」

「いけません。止められていますから」

何の話をしているのか、さっぱり分からないサーシャとナターシャは、隣同士で押し問答しているエルミアとリーシャを交互に見ている。

「呪いも解けたしさ。ね?少しだけ。お願い、リーシャ!」

しつこくせがむエルミアに観念したのか、数分後やっとリーシャは首を縦に振ってくれた。

「少しだけですよ」






「初めての外出だ~!」

宮殿の外に出られると分かって一番はしゃいでいるのは、エルミアではなくナターシャだった。

余所行き用のフード付き緑色のガウンを羽織、その場で蝶のようにクルクルと回っている。

「外に出られるなんて、夢みたい!」

「ほら、そんなにはしゃがない」

サーシャが、エルミアの着付けを手伝いながら厳しい口調で言ったが、幸せ絶好調のナターシャには効かない。

「は~い」と能天気に答えるだけだ。


「いいですか、すぐ帰りますからね」

念のためと、弓と短剣を持ちながらリーシャが暗い声で言った。

「うん、わかってる。ナターシャも嬉しそうだし、少し気晴らししよう」

ナターシャだけでなく、本当はリーシャもサーシャも何年かぶりの外出を心から喜んでいると、エルミアは分かっていた。



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