蒼月の約束
「そろそろ、着くころかしら?」

所せましと食べ物が置かれているテーブルの上に、最後の煮物を置いてお母さんが言った。

「誰か来るの?」

唐揚げをつまみ食いしながら、亜里沙が言った。

「うん、(みつる)おばあちゃんが」

時計を見ながら言うお母さんには、娘の表情が変わるのが見えなかった。

二人は顔を見合わせた。

「うそでしょ…」

「マジ…」


満おばあちゃんは、お父さん方のお母さんで、二人とも小さい頃から苦手なタイプだった。

常に黒い服を着ているというのも理由の一つだが、口を開けば昔の都市伝説や、根も葉もない迷信を、低い声でいちいち二人に聞かせるのだ。
基本的には、お父さんに似て寡黙なのだが、子供の頃にさんざん脅かされた記憶は決して消えない。

「私、無理だよ、おばあちゃんと話すの」

亜里沙が隣でこそっと呟いた。

「私だって嫌だよ」

外で庭いじりをしていたお父さんが合流し、あとはおばあちゃんを待つだけとなったが、何となく空気が重たい。

「私なんて、小学校入る前にサンタはいないって言われたんだから」

亜里沙が朱音の袖口を引っ張った。

朱音も負けじと言い返す。

「私は、運動会に出たら骨折るって言われたよ」

結局、その予言が怖かったせいで、ゆっくり走り、ビリになってクラス全員からひんしゅくを買うという、ある意味骨折より怖い結果になったのだが。

「今日は、お姉ちゃんがどうにかして!」

そう話している内に、チャイムが鳴りお母さんが玄関を開けに行った。
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