蒼月の約束

王子は離れてくれたが、そのまま手を掴み、黙って図書室へと向かった。


その道中で、リーシャたちを連れたグウェンと遭遇した。

サーシャとナターシャがすぐに二人の状況に気づき、顔があっという間に笑顔に変わる。

エルミアは、王子の後ろから「違う」と首を振るしかなかった。


私には、元の世界に好きな人がいるから!


そう顔で表現しようとして、気づいた。

(誰…だっけ?好きだった人…)

好きだった人がいたのは覚えているのに、顔や名前が全く思い出せない。

(あれ…?)

どこで出会って、どうして好きになったのか、そこだけぽっかり穴が開いたように、空白だ。


(学校?仕事?ちょっと待って…)


だんだんと嫌な不安が体を襲う。


(私、ここに来る前、何してた…?)


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