蒼月の約束
「古代花…」
そう呟いたのは、ずっと黙っていたグウェンだった。
「聞いたことあるのか?」
王子がそう問いかけると、グウェンは顎に手を当てて言った。
「かなり昔ですが。幻の花と呼ばれていて、見つけることは容易ではないと聞いたことがあります。
確か、童話かなんかにも出てきた気が…」
「それ、私も知ってる!…ます!」
ナターシャが手を挙げて言った。
「古代花は、氷の洞窟、奥深くに生息していて、ひと月しかもたない命なの。
悲しくて、その童話を読んだときに泣いちゃったから、はっきり覚えてる。…ます」
王子の前だからか、慣れない敬語で話すナターシャ。
「氷の洞窟か…」
「手がかりが色々見つかって良かった」
エルミアが手をパチンと叩いて言った。
「とにかく、私は明日森へ行ってみるよ」
しかし、王子が腕を掴んだ。
「許した覚えはない。危険だと言っているだろう」
「でも、私は呪文が効かない唯一の人間なんだよ?他に適任者がいる?」
反論できる者は誰ひとりいなかった。
「今日はひとまずこれで終わりにして、明日考えよう」
エルミアが突っ走っているのを見抜いていた王子は、そう言って立ち上がった。
「お前は、ゆっくり休め」
そう言ってエルミアの頭を軽く叩くと、図書室から出て行った。
「ミアさま」
その場から動こうとしないエルミアにリーシャが言った。
「ん?…あ、ちょっと考え事するから、三人とも戻っていいよ」
リーシャは目で合図し、先にサーシャとナターシャを仕事に戻らせた。
図書室が静かになった。
エルミアの隣で、リーシャは何も言わず座っている。