蒼月の約束
森に入ってすぐに、エルミアは後悔にさいなまれた。
巨大な大木が等間隔に並んでいる以外には何もない薄暗い森。
いっそ聞こえた方が安心すると感じてしまう程、音という音が何も聞こえず、鳥一匹さえずる声は聞こえてこない。
時々、葉っぱが擦れあう音がしたかと感じるだけだ。
「ここに一人とか…。どんなお化け屋敷よりも怖い…」
両腕で体を抱え、小さく縮こまらせながら、一歩また一歩と歩いて行く。
野生動物の鳴き声が聞こえるのでないかと、どこからともなく狼や熊が飛び出してくるのではないかと、注意を払い、ビクビクしながら進んでいく。
自分がどこに向かっているのか、全く見当もつかなかったが、目的の場所はいとも簡単に見つけられた。
「ここだ」
風化して赤黒く朽ちている何百もの鳥居が連なっているのを見て、エルミアは足を止めた。
しかし、目的地の発見は、さらにエルミアを奈落の底へと落とす。
「嘘ぉ…」
頂上が見えない程高くのびた階段が、エルミアの前に立ちはだかっていた。
こっちの世界に来てから、体は軽くなり運動も億劫ではなくなったとは言え、体力は今までのままだ。
この長い階段を上っていくなんて、考えただけでも気持ちが滅入る。
「でも、行くしかないよね…」
エルミアは、森の外で必死に耐えているエルフたちを思い、くすんだ緑色の苔の生えた一段目に足をかけた。
進めど進めど、中々頂上が見えてこない。
上に向かうにつれ、空気は薄くなり、湿気も帯びて来たせいか呼吸もしづらくなってきた。
永遠と続くこの階段こそが、呪いなのではないかと思い始めた頃には、森にはエルミアのぜーぜー言う呼吸のみが響いていた。
下を向くと、頑張っただけあって、地上ははるか下の方に見えるが、頂上は一向に見えてこない。
がくがくする足と格闘しながら、半分以上は来たと自分に言い聞かせて、エルミアはさらに階段を上り続ける。