妹を溺愛する兄が先に結婚しました
……と、その時。


「なーにしてんのかな?」


低く冷たい声が聞こえてきた。


振り返らなくてもわかる、声。


できればその人であってほしくない、と思いつつも振り返る。


「真崎先生。お疲れ様っす」


「お疲れー」


やっぱり兄だった。


先輩の挨拶に抑揚のない声で返す兄。


空気が僅かにピリついた。


「もう暗いし、早く帰りな」


「そうっすね。じゃあ結咲ちゃん──」


「結咲は俺が連れて帰るよ」


兄はそう言いながら、私の肩を抱いて引き寄せた。


まるで見せつけるかのように。


離してっ、と兄から離れようとした私の耳に、続く兄の言葉が届いた。


「それより、彼女はいいの?」


……は?彼女?


「え?な、なんのことっすか?」


明らかに動揺を見せる先輩。


「3年の三倉(みくら)。彼女なんでしょ?さっき下駄箱で見かけたけど」


三倉って……、引退した女バスの三倉先輩のこと?


「付き合ってるんですか……?」


「あ、いや……、えっと。……失礼します」


私を置いて、先輩は立ち去った。


先輩、わかりやすすぎ。


答え合わせをしているようなもんだよ。



< 11 / 447 >

この作品をシェア

pagetop