妹を溺愛する兄が先に結婚しました
「離して」


冷静にそう呟けば、兄はあっさり離れた。


「なんなの。なんでわざわざ私の前で言うの?」


「結咲に変な虫が付きそうだったから。

それより、少し待ってて。一緒に帰ろ」


「やだよ、先帰る」


足を踏み出した時。


「ダーメ。危ないだろ」


腕を掴まれて、引き止められた。


その力強い手に。


……私は抗えなかった。



***



「結咲。今日部活休みだからどこか寄って帰ろう」


「ごめん。今日は家族で食事の予定があるの。何かのお祝いらしくてさ」


「そっか。じゃあ、また明日ね」


「うん、バイバイ」


爽と別れて、朝から降り続く雨にうんざりしながらも、傘を差して帰路に就く。


こういう時こそ兄の車に乗せてもらえばいいんだろうけど……。


そういえば、今日は学校で一度も兄に会わなかったな。



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