妹を溺愛する兄が先に結婚しました

兄がいないところで

色とりどりに装飾された校内。

年に一度の大祭り、文化祭が幕を開けた。



「んー、うまっ」


「こら、つまみ食いしない!」


朝から調理室に籠ってお菓子作り中の私。


髪をポニーテールに結って、エプロンと三角巾とマスクを身に着ける。


喫茶店なのでメニューはケーキとパン。

甘い匂いに包まれながら作っている最中。


様子を見にきた兄が、私の作ったパウンドケーキをひょいっとつまみ食いした。


もう1つ取ろうとしたので、手を(はた)いて阻止。

兄は不服そうに唇を尖らせた。


「結咲を厨房係にしたのも間違いだったかな~」


「厨房係にしたって……、お兄ちゃんが指示したわけじゃないでしょ」


「ううん、俺が言ったよ。企画書を出しにきた時に『厨房係ならいいよ』って条件を出したから」


「はぁ?」


初耳なんだけど。

メイドを阻止しただけでなく、厨房係にするよう口出しまでしていたなんて……。


「メイドは論外。宣伝係も変な男に引っかかると危ないから、厨房係にしてもらった。……でも、結咲の手作りを他人に食べさせる結果になって後悔してる」


飄々と言ってのける兄に呆れ果てる。


……信じられない。

マスクの下の私は、他人に見せられない表情をしていると思う。


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