妹を溺愛する兄が先に結婚しました
なんの話をしようかって……、話があるからここまで来たんじゃないの?


腕を組んで私から目を逸らした折部くんに、思わず(いぶか)しい表情を向ける。


「冗談だよ」


視線を戻した彼は不敵に笑って見せた。



折部くんの笑顔を見る度に調子が狂う。


さっきの『似合いそうなのに』と言って微笑んだ時もそう。


私の知る折部くんは、ほんとに笑顔を見せない人だった。


相手を挑発するような笑顔も、

優しく見守るような笑顔も知らない。


笑いたい時にふっと笑みが零れる、そんな人だった。


だから、ずっと別人を相手にしている気分になる。

それは、先生をしている時の兄を相手にする感覚に近い。



私の心の葛藤なんて少しも知らず、折部くんが言葉を続ける。


「俺、今日なんで来たか知ってる?」


「え……、女子を物色しに」


「それはイッチーな」


あれ、そうだったっけ……。

さっきの会話を思い返してみると、確かにイッチーだった気もする。


「それじゃあ……、他校の文化祭に行ってみたかったとか」


「文化祭なんて興味ねぇよ。……俺が今日来たのは」

と折部くんは勿体振るように言葉を切った。


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